生成AIの教育利用実態調査
近年、教育現場における生成AIの活用が注目されています。特に、GIGAスクール構想により情報端末が普及する中、小中学校では多くの児童生徒が生成AIを利用しているとされています。そこで、社会人向け総合専門職大学院、社会構想大学院大学の中川哲教授と上越教育大学大学院の榊原範久教授の研究チームが行った調査により、小中学校での生成AI、特にブラウザAI要約の利用実態が明らかにされました。
調査の目的
本調査の目的は、生成AIがどのように小中学校で活用されているのか、特に児童生徒がどのように自ら活用しているのかを把握することにあります。また、検索結果に自動表示されるブラウザAI要約の利用状況や、教員による指導体制、さらにその学習への影響についても検証が行われました。
近年、生成AIは教育現場での学習支援ツールとして期待されていますが、一方で誤情報のリスクや批判的思考の低下が懸念されています。そこで、本調査では教員の観点から生成AIの利用がどのように捉えられ、どのように児童生徒の学びに影響しているのかを分析。その結果を元に、教育現場での対応策や指導方針を議論する材料とすることが目指されています。
調査概要
調査は2025年の10月から11月にかけて実施され、関東・近畿・北陸の複数の自治体において、小学校・中学校・義務教育学校の教員1,090名が対象となりました。データ収集はGoogleフォームを利用した4件法と自由記述によるものです。教員が自己申告で回答する形式であり、具体的なアクセスログは考慮されていません。
主な調査結果
調査結果によると、ブラウザ検索を利用して調べ学習を行っている教員は71.5%に上りましたが、ブラウザAI要約を積極的に推奨する教員はわずか10.1%にとどまりました。特に推奨しないと回答した教員は84.3%であり、児童生徒が教師の指示なく生成AIを使用している自主利用の割合は38.5%でした。この点では、小学校の33.0%に対し中学校では51.3%に達し、ジュニア世代の中での生成AI活用状況には大きな差が見られることが明らかになっています。
また、生成AI要約を推奨している教員は僅か8.7%、推奨しないとする教員は88.6%に達し、児童生徒が要約内容をそのまま用いている割合も高いことが分かりました。このことから、ブラウザAI要約の自主利用率が対話型生成AIの約2倍である点が特に注目されます。
課題と考察
調査の結果、教員の多くが生成AIの利用を推奨しない一方で、児童生徒が教師の指導無しに生成AIを利用するいわゆる“シャドー利用”が広がっている現状が浮かび上がりました。ここには、教育現場における方針と実態の乖離があることが示されています。
特にブラウザAI要約の利用が進んでいる中、検索結果の上部に自動表示されるため児童生徒がその情報をそのまま丸写しする傾向が強まり、必要な情報の比較や吟味、整理のプロセスが省略される危険性も指摘されています。中学校では自主性が高まっていることも影響し、無批判な情報受容が「浅い学び」につながるリスクが高まっています。
今後への提案
最後に、研究チームは「深い学び」を設計するための具体策を3点提案しています。
1. 生成AIが要約した情報の一次情報源まで遡る工程を記録
2. 参照・引用箇所や比較した視点を提出物に含めること
3. AIの出力を結論ではなく、参考の一部として扱う姿勢を育成
これらの提案は、児童生徒が生成AIを上手に活用しつつ、自らの思考を深める手助けになるでしょう。
本調査に関する詳細情報については、2025年12月27日発行の『月刊先端教育 2026年2月号』に掲載予定です。教育現場や政策に関わる方々にとって、AIと学びの未来を考える上で貴重な資料となることを期待しています。